白の八弦琴

中心は、常に動かず。
たとえ、皆が揺らごうとも。


「密使が到着したようだな。急ぎ報告せよ」

「皆様、急にお呼び立てして申し訳ありません」

「かような時に何の用か?」

「ラルハースとダリンゴースとの国境地帯における情報が、ただ今手に入りました」

「ダリンゴース?今は冬ぞ。バッスルの間違いではないのか?」

「私も密使に問い質しました所、ダリンゴースに間違いございません」

「バッスルとの国境で領地争いを行っている最中ではないかね?」

「皆様もご存じのとおり、両国はレキシア湿原が凍る冬になると、領地と水資源を求めて…」

「ダリンゴースとは?」

「ラルハースの軍勢は、ダリンゴース相手には戦力が大きく殺がれます。ラルハースの主戦力である『水の騎士』には、水魔である“泉の守り手ティプテシュア”を召喚する能力があります」

「そうでなければ、水魔に心服したあのガイウス公が叙勲することはありませんわね」

「しかし、両国境のダリンゴース河中流にあるマージェント湖には、水魔より格上の“雫の大公ヴェパーレ”が封印されております。水魔は近寄れません」

「魔族を使役する者が、魔族によって動きを制限されるか。甘いな」

「しかし、解せんな。バッスルとも戦いつつ、ラルハースとも一戦交える力を持っていたとは」

「しかも水魔を使えんのだ。いかようにして川を越えるつもりか」

「司令塔に狂気があれば、いとも簡単だ。もっとも、龍の狂気にかなう者はなかろうが」

「して、両岸の状況はいかに?」

「両者はダリンゴース河を挟んで対峙しております。ラルハース側は、水の騎士で構成される『泉水騎士団』を中心に、歩兵、騎兵、弓兵の各部隊を揃えております。その数、およそ3000。さらに、北方から黒騎士の一団がやってきています」

「ユラスだと?わざわざ仇敵の力を借りるとは、どういう腹積もりか!」

「水が駄目なら影の騎士、という訳か。安直だが、適切だろう」

「一方、ダリンゴース側には、首都フィレアで招集した傭兵団が、警備の任にあたっております。数はおよそ200」

「200!?2000の間違いではないのか?」

「間違いではございません。実際の傭兵達も、対岸との差に謎を持ちながらも、昼夜の警備に当たっております」

「正規軍はどうしたのだ?獅子王教団は?」

「双方とも、メジナ近辺で出現した火龍ザルナーンとの対決の為、加勢に出ております。国境には警備の兵ほどしかおりません」

「龍もスイネに食い飽きたか?」

「これは予定されていたこと。龍退治の加勢で、国内の守りが薄くなることをラルハースは知っている。そして、ラルハースも対策を予定している」

「ダリンゴースの対策を述べよ」

「魔族には魔族を持って対抗することでしょう。かの国には、多くの教団を受け入れる力があります」

「なるほど、偽装教団か。表向き平静だが、その実魔族を信仰している連中。その中で戦に長けた者を呼ぶのか」

「しかし、その教団の勇者達も、今回は動いておりません」

「人の子にとって、冬は眠りの時。春の目覚めを待つ為の、大事な時間。わざわざ動くこともない」

「…ラルハースの南方攻め、ユラスの黒騎士団、…策謀の匂いがするな。そして、なぜダリンゴースは動かない?」

「裏で糸を引いているものがいる、ということか」

「そういうことなら、我らにお任せ下さい。ご指示頂いた者を、必ずや狩り出してご覧に入れます」

「策謀は魔族の常套手段でありましょう。魔族の策謀を防ぐとあらば、まずは我らの射手にご指示を!」

「魔道の道を外れた者の香りが致します。我らの精鋭をお貸ししましょう」

「魔族の眷属を見たなら、我らにご一報頂きたい。研究材料として有効だ」

「策謀は我らが大地に封じましょう」

「所詮、人の世は変わり行くもの。策謀がどのような形で発現しようか分かるものはいない」

「皆様、しばらく、しばらく」

「この状況では、ラルハースの軍勢がいつ河を越えてもおかしくありません」

「それでもダリンゴースは動かないのか。なぜだ?」

「誰も、あの館を越えられないから」

「それも予定されたことなのか」

「そう。ラルハースの軍勢は、河を越えて、それでも、川岸の館を越えられない。今回も」

「今回も、とはいかなることだ」

「ふむ。その館、調べる必要がありそうだな」

「御意」

「では、翼人座、戦車座のそれぞれの塔から、その館を調べる為の人員を派遣せよ。次に、指輪座のものはラルハースの動向を調べ、それを通火座を通してダリンゴース側に伝えよ。そして、青龍座と風虎座は、糸を引く者の探索」

「それでは、今回もラルハースの拡大は望まれない、ということですね?」

「均衡は破られるべきではない。堂主はそう判断されたのだ」

「これにて議会を終了する。皆の者ご苦労であった」

中心は、常に動かず。
たとえ、皆が揺らごうとも。


ps. 今回は見にくいですが、意図的です。各人の色は星座に対応しています。
…が、翼人と原蛇だけは別デス(どーやれと?)

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夢の終わり