青の青龍

夢さえも死をもたらす。
狂気こそ究極の平和のあかし。




夢など見てはならぬ。

夢を見る事、即ち魂を差し出す事なり。
夢を見る事、即ち肉体を捨てる事なり。

昼には気をつけよ。
多彩なる夢魔、汝の魂を喰らわんと襲いかかるであろう。
夜には気をつけよ。
  汝の魂、自ら肉体を離れる事しばしば。

  そもそも、人の子が見る夢とは何か?
それは夢魔の所業である。
そもそも多彩なる、忌むべき夢魔とは何か?
それは生ける者の魂を喰って生きる獣である。
夜、肉体が休息を求める時、魂はまだ動いている。
そして、眠りにより、魂が肉体の拘束から放たれた時。
戒めをなくした魂は、束縛より流れ出す。
自由となった魂、これこそ夢魔の格好の馳走なり。

夢魔は、魂をただ貪るにあらず。
賢き夢魔は、魂を太らせる。
まず、貧しき魂に夢を与える。
明るい夢、楽しい夢、予知、予言、伝承、英知。 
貧しき魂に滋養を与え、丸々と豊かな魂を作り出す。
そして、その魂が人の子に使われる前に、夢魔が食するのだ。
転落、恐怖、残酷、死、崩壊、不幸。
夢魔が魂を食した後、肉体にはそれしか残らぬ。
夢を喰われた肉体は、いずれ滅びる。
夢魔は、また新たな魂を求めるのみ。

夢魔は、常に人の子をまやかす。
夢魔に弄ばれし人の子、混乱と破滅があるのみ。
夢魔は世界をも弄ぶ。
夢魔の現れぬ場所などない。
全ての戦は、これ夢魔の仕業。
全ての陰謀は、これ夢魔の仕業。

夢など見てはならぬ。
夢魔を呼び覚ましてはならぬ。
夢を捨てよ。
希望を捨てよ。
願望は肉体で示さねばならぬ。
魂を肉体で封じ込めよ。
さすれば、夢魔は飢えて消える。
多彩なる夢を食らう夢魔が去れば陰謀は消える。
多彩なる夢を操る夢魔が去れば争いは消える。
皆が夢を捨て去りし時。
その時こそ、約束の地が現れん。
世界を守りし偉大なる力、終末の浜辺にてその時を待つ。

夢など見てはならぬ。
夢を見る事、即ち魂を差し出す事なり。
夢を見る事、即ち肉体を捨てる事なり。



* * *

「なんだこりゃ?」
「夢を見る事の危険性を説いた説話だ。もっとも、ほとんどは詭弁だ」
「夢を見るな、って言われてもなぁ。夢がないと生きていけないぜ?」
「夢を喰う『夢魔』の存在はまだ確立されていない。恐らく龍王教団の一派が作ったものだろう」
「…にしちゃ、そんなにきつくない書き方をしてるな。あの連中にも穏健派がいるのか?」
「浸透を狙ったものだ。悪夢が多そうな地域に撒いて、勢力の拡大でも考えたのか」
「放っておくか?」
「いや、焼き捨てる。わずかだが、これに意志を感じたからな」
「魔道士ってのは分からねぇな。こんな紙キレに意志があるってんだから。だが、俺はあんたの言葉でブッ倒れたことがない、それが自慢さ」

夢さえも死をもたらす。
狂気こそ究極の平和のあかし。



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夢の終わり