黒の戦車

反逆者には炎をもて、戦わん。
一同、情けは無用ぞ。


カランカラン。 「はい、いらっしゃい」
「『温もりの鍛冶場』ってのはここのことか?」
「あぁ、そうだ」
「見つけるのが大変だったんだぞ。こんな『雫通り』の奥で店を構えているのだからな」
「ここにしか場所がなかったんじゃ。それより、おまいさんは何の用だ?」
「長剣を作ってほしい。あんたにしか作れないようなモノをだ」
「…無理だな。わしゃもう武器作りは止めた。今じゃ鍋とつるはし、そしてシャベルしか作っとらん」
「鍋とつるはし?」
「そうじゃ。ここではそういうものしか作ることはできん。ここは戦でかたわになったもの、異形が付いたもの、年老いて残り少ない戦人などが、肩を寄せあって暮らしておる。おまいさんも見たじゃろ。そういうところで、武器を作ることができるかね?」
「かつて、『炎の刀鍛冶』と謳われたあんたが、今じゃ鍋造りか。落ちたものだな」
「…懐かしい響きじゃよ。だがもうその腕はない。さ、この体たらくを見たら出てってくれんか」
「そうか…残念だ」
「役にたてんで済まんな。あと、ここのことは忘れてくれ」

* * *

カランカラン。 「はい、いらっしゃい」
「『炎の刀鍛冶』テラノ殿ですな」
「確かにわしじゃが、何か?」
「あなたに、武器を作って頂きたい」
「わしはもう武器作りは止めた。すまんが、他をあたってくれんか」
「あなたでなければできないことなのです。そう、『火炎獣結社』生き残りのあなたでなければ」
「…!なぜその名を知っておる!?」
「私も魔道師学院の端くれでありますならば、依頼をする方の身辺調査は初歩中の初歩と心得ております」
「何処の魔道師じゃ?」
「私は翼人座の魔法を学んでおります」
「魔法があるじゃろ。わざわざわしに会うことなんてない」
「私は使いで派遣されました。貴方様の武器を欲しているのは別の皆様です」
「…よく分からん。何がどうしたというのだ」
「黒剣座の魔道師の中に、学院の規律に反したものがおります。学院としては、それを排除せねばなりません。あなたも『獣師同盟』の名前を聞いたことがあるかと思います」
「『獣師同盟』?あぁ、よく覚えておる。わしの息子を材料に使った、あの連中か!わしの息子が、あの蛸の足に付いて、『お父さん、お父さん』と張り付いてきたあの光景は、しっかりと目に焼き付いておる。わしはあの連中を許さんぞ!」
「お気の毒様でした。その獣師同盟が、ダリンゴース近郊の村で近々作品の発表会を催すということです。学院としては、その時に…」
「もういい。それ以上はいわんでくれ。何がいい?剣か?鎌か?斧か?まったく、この年寄りをそってしておいてくれんのかね」
「お引き受け下さりましてありがとうございます。それでは、長剣の作成をお願い致します」

  * * *

カランカラン。 「はい、いらっしゃい」
「テラノじいさん、聞いたかい?」
「なんじゃね?」
「ダリンゴース近辺にあるトトマリという村が、この前全焼したんだってさ」
「村丸ごとか」
「あぁ。それも傭兵一人にだってよ」
「傭兵一人が村ごと灰にした、というのか?」
「何でも、その傭兵、伝説の『炎の刀鍛冶』が作ったといわれる剣を持っていたらしくてさ。その村に隠れていた魔獣と戦う時に、刀身は真っ赤な炎に包まれていたっていうぜ」
「『炎の刀鍛冶』とな。そんな名前、わしゃ知らんな」
「ところで、鍋を作ってくれないか?」
「あぁ。いいとも。今日は気分がいい。どんな時にも暖かい飯が食える鍋を作ろう」

反逆者には炎をもて、戦わん。
一同、情けは無用ぞ。



戻る
夢の終わり