赤の翼人

そのうたかたの鎖を断ち切ろう。
今や、汝は自由となった。


『鎖』はしがらみでもあり、道でもある。
人を縛る様々な『鎖』。ある時は人の子の道を妨げる。またある時は人の子に道を示す。自分の肉体すらも、自分を囲んでいる『鎖』たりえる。
その『鎖』の存在に慣れてしまったがために、『鎖』のない状態に戻ることあたわず。
『鎖』を断つということ。過去の思い出、未来の指標をもなくすことに他ならない。
『鎖』がなくなった時、人の子は何処を目指せばいいのか?
『鎖」から解き放たれた精神は、何処へ飛んで行けばいいのか?
もはや何処へ行こうとも、誰も気にしない。
もはや何処へ行こうとも、誰も道を示さない…。

* * *

空を飛ぶ夢を見た。

町の最下層で、毎日ゴミを拾い集めて、役人からわずかなお金をもらっている毎日。
どんなに薄汚いスラムでも、空だけはいつも青かった。
どんな時でも、誰にでも、青い空はまんべんなく希望をくれた。

だから、空になりたかった。
空になって、虹になって、花が咲いているところをいっぱい見たかったんだ。
一度でいいから、地面から離れて、自由に空を飛び回りたかった。
汚い町を離れ、もっと綺麗な、もっと鮮やかなものを見てみたかった。

* * *

誰も通ることのない、スラムのわき道。
全身泥で汚れた少年の前に、一人…いや、四人の男が立っていた。
その全身は、一点の曇りもない白衣で覆われている。
その目は、白い羽で覆われた仮面に隠されている。
そして、右手には、鋭い鎌槍を携えていた。

「空を飛びたいか」
「うん」
四人のうちの誰かが問う。返事は即座にあった。
少年に呼応するかのように、他の3人も次々に声を発した。
「ならば信じよ」
「君は空を飛べる」
「飛ぼうとしたことがないだけなのだ」
少年は、四方から応援の声を受けた。
この汚い場所から抜けられるなら。
目指していたものと一緒になれるのなら。
そう願って、汚き姿の少年は、「飛びたい」と一心に願い始めた。
数分の後。
少年の体が宙に動き始めた。
足を、自分を縛り付けていた、大地の重みがなくなっていく。
信じたとおりだ。本当に、空が飛べるんだ。
けっしてかなうことがないはずの夢が、まさか本当のものになるとは。
だが、次に彼を待っていたのは、男達の鎌槍だった。
四方からの完全なる同時攻撃。夢中になっている少年がそれに気付くはずもない。
少年の体は4つに分割された。気付くことのないまま。
しかし、分割された体からは、緑色の血が流れていた。

* * *

「思ったとおりだ」
「やはり新手の魔獣だったか」
「新生児の体内に魔獣の種を仕込み、人の子の成長に従って宿主を食おうとは」
「急ぎ翼の使いを呼び出そう。
 魔獣の恐怖という鎖より解き放たれた少年の魂を、急ぎ葦原の国へとどけるのだ」

そのうたかたの鎖を断ち切ろう。
今や、汝は自由となった。



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夢の終わり