紫の黒剣

支配するは我なり。
秩序こそが世界の中で最も美しい。


 このカードほど、目的が明確な『語り部』も少ないと思います。
 何しろ、『支配』『秩序』と二つも書いてありますから。
 ダメージも「頭をかすめて、恐慌を起こす。手札を2枚減らす」と、語り部に沿った演出ダメージとなっています。
 そんな訳で、プレイヤーにとっても、マスターにとっても、明確なぶん使いやすく、また扱いが難しいカードなのではないでしょうか。
 支配願望は誰にでもあります。
 誰だって『自分のモノ』を持ちたいでしょうし、『他人のモノ』にされたくもありません。
 だから、自分が使った時は気持ちがいいでしょう。
 逆はいうまでもありませんよね。
 また、黒剣座の意味するところである『生命』『成長』『力』『決断』『影』『存在』を念頭に置く必要もあります。
 そうでなければ、『支配すること』はタダの虚像でしかなくなってしまうのです。
 『支配』には、なんらかの後ろ盾があることが望ましいでしょう。
そうすれば、より存在感かつ説得力のある使い方ができるのです。
 例えば、他のキャラクター(PCorNPC)の支援。
 例えば、魔族や魔剣の力。
 あるいは、自分の縁故や運命、過去の背景、そして愛用品なども使うことができます。
 『俺はこの剣で世界を征服してやる』という背景なんかは、この典型です。
 「愛用の剣」という後ろ盾があって、「征服」という明確な目標があるのですから、「支配」を明確に示したカードはぴったりと言えます。
 ところで、このカードには落とし穴があります。
 『支配する』側が『支配される』側に変わってしまうこともあるのです。
 『支配』ということは、対象の力をなんらかの形で押さえ込むことになります。
 そして、支配されている側は、束縛から脱するために、スキを見て支配から逃れようとすることでしょう。
 大抵、それは支配している側の力が弱まった時に行われます。
 そして、支配されている側は全力で脱しようとします。
 果たして、支配している側は押さえ付けられるでしょうか?  支配する側に相性のいいカードとしては、『黒の原蛇』『入信』があります。
 対して、支配から脱しようとする側には、『黒の古鏡』『緑の古鏡』『多彩なる夢魔』『偽り』などを使うといいでしょう…おっと、支配し返してやるのも忘れずに(そーゆーカードだろって?)。

* * *

 「90…」
 ラルハースとバッスルの軍隊が、毎年のように命のやり取りを繰り広げる戦場があった。
 両国を挟む、レキシアと呼ばれる湿原があった。
 毎年冬になると全体が凍り、両国の水資源を巡って争いが起こる。
 凍った地表が、辺り一面に赤黒く染まる、血なまぐさい北風。
 そこは、両国のみならず、世界各国や魔族達など、様々な者共の思惑が交錯する場でもあった。

 一人の歩兵がいた。
 バッスルの兵でも、ラルハースの兵でもない。
 このような所に一人で足を踏み入れるのは、正気の沙汰にあらず。
 身に付けていた全身鎧は、既に赤黒いもので金属の輝きを失い、部分防具の所々も失われていた。
 それでも、中身は動いている。
 顔にも、瞳にも、まだ生気が残っている。
 手にしている長剣には、地の利の一滴も付いておらず、鈍い銀の輝きを放っていた。
 「後…10人か」
 主戦域から離れたぬかるみで、鎧の中身はひとりごちた。
 (そうだ)
 手にした剣から、男の頭に語りかける精神があった。
 (後10人、我が身で倒せたなら、お前を開放してやろう)
 「10人か…どこへ行くか」
 男はしばらく、湿原をさまよい歩いた。
 凍った水辺は、辺り一面血の色で染まっていた。
 水辺の上には、動く、動かないにかかわらず、いろいろな肉の塊が転がっていた。
 辺りに立ち込める霧は、男達の命の輝きの賜物だった。
 「俺もいつかはこうなるな…」
 剣は独り言に答えなかった。

 やがて、右前方に、槍を持った兵士の影が現れた。
 数およそ50。
 選択の余地はなかった。
 「あれだ」
 (あれだ)
 全身鎧を鳴らし、足下の氷を割る音を響かせ、男(と、男を支配している剣)は、突撃準備中のバッスル槍部隊に駆け込んでいった。
 準備中の槍部隊は、霧の中から現れた突然の敵に、浮き足立っていた。
 槍を構えようとした3人を、すれ違いざまに切り捨てる。
 「後7人!」
 左横から4本の槍が突いてくる。
 右手の剣が、自動的にやすやすと払いのける。
 「!」
 槍兵たちに動揺が走る。
 敵にこんな凄腕の剣士がいようとは。
 違う。
 凄腕の剣士は、斬る対象がいればどれでも良かったのだ。
 4本の槍の持ち主は、それぞれ各個撃破された。
 あっという間の瞬殺劇に、周囲の槍兵は恐れおののいた。
 7人を斬ったにもかかわらず、その刀身には血が付いていなかったのである。
 違う。
 刀身が血を吸い取り、一滴も残らなかっただけなのだ。
 「後3人!どこからでもかかってこい!」
 男の怒声に、3人といわず、10を超える槍兵が、周囲から一斉に突撃する。

 結果は…

 「これで100人はやったぞ。さぁ魔剣よ、俺を貴様から開放しろ!」
 (見事。
  1日で100人の血を食す、余の望みを達成せしもの。
  望みどおり、お前を開放してやろう)
 達成感と開放感がごっちゃになった男。
 自らを支配していた魔剣を地面に刺し、手から放した瞬間、彼は一斉に槍ぶすまにされた。
 精神的に満足感で満たされていた男に、もはや痛みなど関係ない。
 槍が抜かれ、その体が地面に落ちた後も、その表情は変わりようがなかった。

 そしてまた、冷たい地表に肉の塊が1つ増えた。

支配するは我なり。
秩序こそが世界の中で最も美しい。



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